「なんで○○先生は今日いないの?」
何気ない日常の一コマで、子どもの「なんで?」につい答えを教えてしまっていませんか?
この「なんで?」への対応が子どもの論理的思考能力を育てる最大のチャンスだと気づかされた話をしたいと思います。
ある理系保育士さんの実践が、とても興味深い
ある理系出身の保育士さんが、日々の保育で心がけていることを公開されていました。それを読んで、これはすごく面白い!と感じたんです。
彼女が一番大切にしているのは、子どもからの「なんで?」に、すぐ答えを返さないこと。
子ども:「なんで○○先生は今日いないの?」
保育士:「なんでだと思う?」
この問いかけに、3歳児でも「お熱?」「おなか痛いのかな?」「勉強してる!」と、自分なりに考えた答えを返してくるそうです。
一般的には「お熱があるみたい」とすぐに答えを提示することが多いと思います。でも、あえて問いかけることで、子どもは自分の頭で考え始める。
子ども:「お菓子食べた!」
保育士:「例えばどんなお菓子があった?」
抽象的な言葉から具体例を引き出す。
これも数学的思考の基礎となる「具体と抽象」の理解につながると、彼女は言います。
科学は「なんで?」から始まる
この保育士さんの考え方で特に共感したのは、「科学は『なんで?』から始まる」という視点です。
自然科学も社会科学も人文科学も、すべては「なんで?」という疑問から始まっています。
そして彼女が大切にしているのは、子どもが出した答えを「基本的に肯定する」こと。
合っていても、間違っていても、空想であっても、その子なりの「論理」を持って考えた答えです。
まずはそれを受け止める。
この安心感があるからこそ、子どもは自由に考え、発言する力を伸ばしていけるのではないでしょうか。
もし「分からない」と言われたら?
「私はこう思うな」と、先生自身の考えを一つ提示するそうです。
年齢に応じて、想像力を働かせられる答えだったり、論理的に筋の通った答えだったり。
そこから、また子どもの思考が動き出します。
なぜこの関わり方が大切なのか
論理的思考能力は、自分の考えを言葉で伝えたり、相手の話を正しく理解するのに欠かせない力です。
就職活動では、良い大学を出ていても論理的思考が弱いと「今から鍛えるのは難しい」と判断されることがあります。大人になってからも、情報を整理して読み取る力、順序立てて考え伝える力は、ずっと必要とされます。
でも、この理系保育士さんの実践を見ると、こうした力は高額な教室に通わなくても育てられることが分かります。
日常生活の何気ない会話の中に、チャンスが溢れているのです。
「意識する」ことで効果は高まる
多くの保育士さんは、感覚的にこうした関わりを自然に行っています。
でも、それを「意識して」行うことで、効果はさらに高まるはず。
「なぜそう思うの?」と適切なタイミングで問いかけることで、理由を考える機会を意図的に増やせます。
子どもの答えがズレている時には、どこでつまずいているか推測して、ヒントを出すこともできます。
例えば、砂場遊びで
「バケツとじょうろ、どっちがたくさんお水が入る?」
と聞いた時、子どもがじょうろを選んだとします。
「なんでそう思ったの?」と聞くと、「だって、じょうろの方が大きいもん」という答えが。
子どもは全体の大きさで判断していて、実際に水が入る部分に気づいていないんですね。
そこで例えば、
「確かに大きく見えるね。でも、この中(水を入れる部分)を見てみて。バケツと比べてみたらどうかな?」
とヒントを出せます。
こうして、子どもがどこで、どう考えているのかを理解してサポートできるのです。
このようにして、お着替え、給食、お散歩といった日常の会話すべてが、思考力を高める場になっていくのです。
特別なことは何もいらない
特別な設備は要りません。「子どもの思考を引き出す問いかけ」を意識するだけです。
子どもとの会話のなかで、ふと思い出したら。
「なんで?」
「どうしてそう思ったの?」
と聞いてみてください。
答えが出なくても、正解じゃなくても大丈夫。
一緒に考える時間が、思考力を伸ばしています。
「科学的思考を育てる保育」としてちょっとでも意識する。こうした意識が少しでも広がったら素晴らしいなと思います。
子どもの「考える力」は、今日の小さなやりとりの積み重ねで育っています。
